十一面観音
十一面観音には正面のお顔の上に十一の顔をお持ちです。十一とは、四方四維(東西南北とその間)の八方向と、上中下の三方向を合わせた数です。つまり十一面観音は同時にすべての方向を観じ、すべての方角に慈悲を発する仏であります。
頭頂には仏面があります。これは十一面観音がすでに仏の境地におられることの標示であります。頭上前の三面は慈悲相であり、慈悲をもって衆生から苦を抜き楽を与える働きを表します。向かって右三面は瞋怒相であり、激怒されている表情です。忿怒面は邪悪な衆生を戒めて仏道へと向かわせる慈悲に発する方便としての怒りを表してます。向かって左三面は白牙上出相です。口から牙を現し、修行する仏弟子を励まし、仏道を勧める、讃嘆の表情です。背面の一面は暴悪大笑面(ぼうあくだいしょうめん)です。悪への怒りが極まるあまり、衆生の凶悪な行為を大口を開けて怒り笑う恐ろしい笑顔です。
右手を垂れ下し、施無畏印に念珠を持ち慈心により楽を与え、左手は蓮を挿した水瓶を持ち悲心をもって苦を抜かれます。このお姿は玄奘訳「十一面神咒心経」基づきます。
不空訳『十一面観自在菩薩心密言念誦儀軌経』に説かれる十一面観音の「十種勝利(10種の現世利益)」と「四種功徳(4種の来世での功徳)」
十種勝利
一、「離諸疾病」 病気にかからない
二、「一切如來攝受」 一切の如来に受け入れられる
三、「任運獲得金銀財寶諸穀麥等」 金銀財宝や食物などに不自由しない
四、「一切怨敵不能沮壞」 一切の怨敵から害を受けない
五、「國王王子在於王宮先言慰問」 国王や王子が王宮で慰労してくれる
六、「不被毒藥蠱毒。寒熱等病皆不著身」 毒薬や虫の毒に当たらず、悪寒や発熱等の病状がひどく出ない
七、「一切刀杖所不能害」 一切の凶器によって害を受けない
八、「水不能溺」 溺死しない
九、「火不能燒」 焼死しない
十、「不非命中夭」 不慮の事故で死なない
四種功德
一、「臨命終時得見如來」 臨終のとき、如来とまみえる
二、「不生於惡趣」 悪趣(地獄・餓鬼・畜生)に生まれない
三、「不非命終」 早死にしない
四、「從此世界得生極樂國土」 来世、極楽浄土に生まれる